涼しい夜、濡れた落ち葉の間を小さな生き物がこっそり進んでいます。背中に黒っぽいよろいをまとった虫のようです。短い足が6本と、するどいアゴが2つ。カタツムリが残したネバネバしたあとの上を、しめった土をはうようにゆっくりと追いかけていきます。
この小さなハンターは、イモムシではありません。なんと、ホタルの幼虫(赤ちゃん)なのです!
ホタルと聞くと、あたたかい夏の夜空をふわふわ飛ぶ、やさしい虫を思い浮かべる人が多いかもしれません。成虫のホタルは、ニューヨークからノースカロライナまでの庭先や、ブラジルのアマゾンのジャングル深くでも、ピカピカと光を放ちます。でも、ホタルが羽を生やして空を飛ぶ前は、なんと最長で2年間も、土や落ち葉の中で暮らしているのです。
暗い地面の下で、ホタルの幼虫は腹ぺこのハンターとして過ごしています。カタツムリやナメクジ、ミミズのような体のやわらかい生き物を追跡し、化学の力(毒)を使って捕まえて食べるのです。
シチズンサイエンス(市民科学)のWebサイト「Alitaptap」では、世界中からホタルの目撃情報が寄せられています。ニューヨークやオハイオではコモン・イースタン・ファイヤーフライが、ブラジルやパラグアイでは Aspisoma lineatum、テキサスでは Pleotomus pallens が見つかりました。ヨーロッパでも、ドイツやフランスでヨーロッパマドボタルが観察されています。
こうした大人のホタルたちも、みーんな最初は地面で暮らす幼虫でした。ホタルの本当の姿を知るには、彼らの命が始まる足もとのドロに目を向けてみる必要があるのです。
ホタルの幼虫ってどんな姿?
「幼虫(ようちゅう)」とは、成長するにつれて姿を変える昆虫のこどものことです。チョウが青むしから始まるように、ホタルも甲虫(カブトムシやクワガタのなかま)なので、幼虫からスタートします。
お母さんホタルは、しめった場所に卵をかくして産みます。濡れた落ち葉の下、くさった木の中、小川の近くのしめった土の中などです。数週間たつと、たまごからちっちゃな幼虫が生まれてきます。
ホタルの幼虫は羽がないので飛べません。体は平らな板が重なったようになっていて、これが「よろい」の役割を果たし、岩や木の皮の下をはうときに体を守ってくれます。
幼虫の時期は、ほとんどの時間を食べ物探しに費やします。大人のホタルの寿命はほんの数週間ですが、幼虫の時期は1年〜2年も続きます。つまりホタルは、一生のほとんどを土の中でハンターとして過ごしているんです!
どうやってカタツムリを追跡するの?
カタツムリは歩くのが遅いですが、硬いカラで身を守っています。危険を感じると、カラの中に体をひっこめてじっと耐えます。
では、こんなに小さな幼虫が、どうやってカラに入ったカタツムリを捕まえるのでしょうか?
カタツムリが濡れた葉の上を進むと、透明なネバネバの跡(粘液)が残ります。ホタルの幼虫は、頭にある触角を使ってこのネバネバを感知します。まるで探偵が雪の上の足跡をたどるように、追跡していくのです。
カタツムリに追いつくと、幼虫はそのやわらかい体に乗り移ります。
幼虫には「大あご」と呼ばれる、ストローのように中が空洞になった鋭いあごが2つあります。これでカタツムリにかみつき、あごを通して特別な液体を注入するのです。
ごちそうをスープに変えちゃう!
幼虫が注入する液体には、獲物の動きを止める「麻痺毒(まひどく)」と「消化液」が入っています。
毒はすぐに効きます。カタツムリは逃げることも、カラの中に逃げ込むこともできなくなってしまいます。
そして消化液が、カラの中にあるカタツムリの筋肉をドロドロに溶かしていきます。固いお肉が、やわらかいスープに変わってしまうのです!
カタツムリの中身が溶けたら、幼虫はそれをジュースのように吸い取ります。何も残らなくなるまで飲み干してしまうのです。
これは「体外消化(たいがいしょうか)」と呼ばれ、お腹の外で食べ物を消化する方法です。クモや肉食の甲虫たちも同じテクニックを使っています。
1匹の幼虫は、何十匹ものカタツムリやナメクジ、ミミズを食べます。大きなカタツムリのときは、何匹かの幼虫で分け合って食べることもあるんですよ。
なんでホタルの赤ちゃんは光るの?
大人のホタルは、暗やみでパートナー(結婚相手)を探すために光ります。でも、幼虫は子どもなのでパートナーを探す必要がありません。じゃあ、どうして光るのでしょうか?
じつは、大人が光らない種類のホタルでも、幼虫はみーんな光るんです!
幼虫にとって、光ることは敵への「警告(けいこく)」なのです。
ホタルの体には、敵にとってすっごくマズい化学物質が含まれています。種類によっては、食べた小さな動物がお腹をこわしてしまうような毒を持っていることもあります。
つまり暗やみで光ることで、「ぼくを食べてもマズいぞ!食べるな!」とアピールしているのです。
この警告サインを「警戒色(けいかいしょく)」といいます。スズメバチが黄色と黒のしま模様で鳥にハリの危険を知らせたり、ヤドクガエルが派手な色で毒があることをアピールしたりするのと同じです。
ホタルの幼虫は暗い土の中にいるので、派手な色の代わりに「光」を使います。ぼんやりとした光が、土の中の電光掲示板の役割を果たしているんですね。
実験室での研究では、ハツカネズミやカエルが光る幼虫を一度食べようとしましたが、すぐに吐き出し、それ以降は光る虫を絶対に食べなくなりました。光のおかげで、幼虫は命びろいをしたのです。
土の中で大人へと変身!
幼虫が大きくなっても、よろいのような皮膚は大きくなりません。だから、大きくなるためには皮を脱ぐ「脱皮(だっぴ)」をします。幼虫は2年の間に何度も脱皮を繰り返します。
冬が来ると、幼虫は土の中やくさった木の中に潜り込み、あたたかい春の雨が降るまでじっと休みます。
十分に大きくなると、幼虫はドロとツバを使って小さな部屋を作り、サナギになる準備をします。
この土の小部屋の中で、幼虫は「サナギ」に変身します。サナギは透明なケースの中で眠っている大人のような姿をしています。歩くことはできませんが、敵をおどかすために光ることはできます。
サナギの中で、足が長くなり、羽ができ、目が発達していきます。そして1〜2週間後、ついに成虫となったホタルが外へ出て、夜の空へと飛び立っていくのです。
地下のハンターたちを守ろう
豊かな土がなければ、大人のホタルも生きていけません。
ホタルの幼虫が生きていくには、しめった地面が必要です。土が乾燥しすぎると、幼虫は死んでしまいます。また、エサとなるカタツムリやナメクジ、やわらかい虫たちも必要です。
落ち葉をきれいに掃除しすぎたり、芝生に殺虫剤をまいたりすると、幼虫のすみかが壊れてしまいます。薬品はカタツムリやミミズを殺してしまい、コンクリートや乾燥した芝生はお母さんホタルが卵を産めなくさせてしまいます。
Alitaptapに寄せられる目撃情報は、地面の下で幼虫が元気に暮らせる環境がどこに残っているかを科学者が知るのに、とても役立っています。
おうちのお庭や身近な場所で、ホタルの幼虫を助ける方法がありますよ。
1つめ:お庭のすみに、落ち葉を少しだけ残しておきましょう。落ち葉の山は湿り気が保たれ、カタツムリや幼虫の良いすみかになります。
2つめ:芝生や庭に化学農薬や殺虫剤を使わないようにしましょう。
3つめ:お庭の一部を、日かげでしめった状態に保ちましょう。
今度、木々の間でホタルの光がピカッと光るのを見たら、その虫がたどってきた大冒険を思い出してみてください。暗いドロの中で何年も過ごし、毒のかみつきでカタツムリを狩り、身を守るために光っていたことを。空を飛ぶホタルは本当に素晴らしいですが、彼らの物語はいつも、足もとの土の中から始まっているのです。
