夕暮れの声
スマホの光がなかったむかし、人々は日が沈むと外に出て、草むらがピカッと光りだすのをながめました。暗やみの中でホタルが点滅する様子は、まるで空から落ちてきた星のようです。昔の人たちは、この魔法のような光にずっと昔から気づいていました。ただ光を見つめるだけでなく、ホタルの歌を作ったのです。
世界各地の古い音楽をきいてみると、小さな虫たちの光が歌詞のなかに登場します。日本では、夏の夜に水辺でホタルが舞うようすを歌った昔からのわらべうたを子どもたちが歌います。フィリピンでは、ホタルのことをアリタップタップと呼びます。この言葉は、川辺の木々にホタルが集まる場所で語り継がれる詩や物語の中に生きています。これらの歌は、ただの楽しいメロディではありません。まちはるかにならず、人々が虫たちといっしょに暮らしていたころの古い記録なのです。
夏の夜のうた
音楽は、いなくなってしまうとさみしいものを私たちに教えてくれます。ホタルがあらわれるのは、たいてい温かい季節です。夏はいつまでも続かないため、ホタルはあっという間に過ぎ去る時間のシンボルになりました。多くの民謡のなかで、光る虫は指の間からこぼれ落ちていく一瞬の時間をあらわしています。
ホタルの光がどうやって光るか考えてみましょう。光はほんの一瞬でおきて、すぐに消えてしまいます。詩を書く人たちは、そのリズムに気づきました。カブトムシの仲間であるホタルの光を、ぱっと燃え上がっては消える思い出にたとえたのです。子どもが光る虫の子守り歌を聞くとき、その音楽は子どもを眠りにさそいながら、窓の外の静かな世界へとつないでくれます。
海を越えて、今の私たちは見つけたものを地図や市民科学の記録に残しています。香港では、ポクフラムロードの近くでStenocladius bicoloripesなどの虫が見つかっています。ブラジルのイパチンガなどでは、Aspisoma lineatumの記録がつけられています。このような現代の記録がたくさんの数字や日付でいっぱいであっても、光る虫を見つめるときのワクワクした気持ちは、何百年も前とまったく同じなのです。
受け継がれる物語
子どものお話では、大きな世界の中での小さな生き方を教えるためにホタルがよく登場します。お尻を光らせる小さな甲虫は、暗い森の中でも道を見つけることができます。だからこそ、お話の主役にぴったりなのです。友達をさがすホタルのお話を読むと、その虫はまるで小さなランタンのように、読者を暗やみの中から導いてくれます。
お話の中には、ホタルがメッセンジャーとして活躍するものもあります。また、日が沈んだあとも起きている森の生き物たちのランタンとして描かれることもあります。こうした物語のおかげで、子どもたちは、ふだんなら踏みつぶされてしまうような小さな生き物にもやさしい気持ちを持てるようになります。動物が登場するお話を知っていれば、庭で見かけたときにもきっと見方が変わるはずです。
過去と現在をつなぐ声
いまの私たちは、ホタルがどこにいるのかを知るために、古い歌だけにたよる必要はありません。みんなライトやノートを手に外に出かけて、近くの公園や川岸を調べています。カナダのオンタリオ州などでは、寒くなると冬ホタルが見つかります。フランスのヴァルジュフレなどの場所では、Lampyris raymondiというホタルが見つかっています。見つけた人が発見を記録するたびに、この虫たちの終わらない物語に新しい1文が書き加えられていくのです。
ホタルについての歌を聞くとき、あなたは数百年前からつづく会話に耳を傾けています。暗やみの中で冷たい光のスパークを見つめ、音楽を作りたいと思った人たちの気持ちを感じ取っているのです。夜の暗さを守り、カタツムリや幼虫がすむしめった場所を大切にすることで、未来の子どもたちも光る夜についての新しい歌をずっと作り続けることができるのです。