パラワン島の静かな川に日が沈むと、暗い茂みがピカピカ光りだします。葉っぱの上で、黄色い小さな光の粒がパッとついたり消えたり。フィリピンでは、この光る虫たちのことを「アリタップタップ」と呼びます。声に出して言ってみると、まるでひそひそ話みたいに、なんだか楽しい響きがします。島々のあちこちの地域にもそれぞれの呼び方があって、みんながこのピカピカ光る虫を大切に思っているのがよくわかります。
パソコンや地図がなかったずっと昔から、夜の水辺を歩く人たちはこの光を見ていました。ボホールのバタン川や、ドンソル、イワヒグの近くの静かな水辺は、たくさんのホタルが暮らす場所としてとても有名です。ホタルたちは川岸の木に集まり、ときにはみんなで一斉に光ります。まるで水辺にクリスマスのイルミネーションを飾ったみたい。でも、その電球はぜんぶ生き物なんだよ。
どうしてこうした場所がそんなに特別なのか知るために、ホタルが生きるのに何が必要かを見てみましょう。ホタルはどこにでもいるわけではありません。湿った土、きれいな水、そしてたくさんの木が必要なのです。イワヒグのような場所では、マングローブの森や川べりが安全なおうちになっています。泥の中で暮らす赤ちゃんホタル(幼虫)は、カタツムリやミミズをさがして食べています。もし水が汚れたり、木が切られてしまったりしたら、ごはんがなくなってしまいます。ごはんがなくなると、ホタルもいなくなってしまうんだよ。
だから、地元のひとたちは川の自然を守るためにがんばっています。ボホールのツアーガイドは、うるさいモーターボートのかわりに手漕ぎボートを使います。そうすれば虫たちをびっくりさせないし、ガソリンで水を汚すこともありません。川の近くに住む人たちは、夜になると外の明るい明かりを消します。まぶしすぎると、ホタル同士が光の合図を見つけにくくなってしまうからなんだ。川を守ることは、そこに暮らすたくさんの植物や動物たちの町全体を守ることにつながります。
いま、世界中の人たちが自分の庭や公園でホタルを見つけています。私たちの世界地図を見ると、いろんな場所から最新の目撃情報が届いているのがわかります。ノースカロライナ州チャペルヒルでアメリカボタルを見つけた人もいれば、ドイツの草むらでヨーロッパツチボタルをみつけた人もいます。カナダやアメリカで冬のホタルを見つけたり、台湾や日本のホタルを記録している人もいます。地図の上の小さな点はぜんぶ、ホタルたちがどこで元気に暮らしているのかを教えてくれる大切な手がかりなんだよ。
きみの見つけたホタルも、この大きなパズルの大切なピースです。フィリピンの人がパラワン島の川でホタルを見つけて地図に登録すると、みんなで使っている地図の大切なデータになります。科学者もふつうの市民も、この記録を使ってホタルがどこにいて、数がどう変わっているのかを調べています。おそろしい実験室なんていらなくて、ただ暗い夜と、木のそばの静かな場所、そして暗闇で光る明かりを見つけるよくばりな目があればいいんだよ。