8月の涼しい夜、夜の8時です。あなたはアメリカ・オハイオ州シンシナティにある、草におおわれた小道の入り口に立っています。日が沈んでから1時間がたちました。最初、草原は真っ暗に見えます。でも、草むらの近くで小さな緑色の火花がひとつ、フワリと浮かびました。モミジの木の高いところでも、もうひとつの火花がピカッと光ります。まもなく、暗やみの中でいくつもの小さな光がついたり消えたりし始めます。
突然、だれかがまぶしい白い懐中電灯をつけました。光の束がサーチライトのように草の上をサーッとなぞります。すると一瞬で、すべてのホタルが光るのをやめてしまいました。草原は再び真っ暗になります。魔法のような特別な時間が消えてしまったのです。
ホタルの観察は、夏の夜の最高のたのしみのひとつです。世界中の人々がホタルを見るのが大好きです。今週のAlitaptapのマップには、フィラデルフィアから香港まで、会員のみなさんからたくさんの目撃情報が寄せられました。でも、この光る虫たちを楽しむには、ホタルを邪魔せずに見る方法を知っておく必要があります。強い光やカメラのフラッシュ、大きな足音は、みんなのホタル観察を台無しにしてしまうことがあります。ここでは、ホタルを安全に観察し、暗やみで写真を撮りながら、同時にホタルを守る方法を紹介します。
ホタルが暗やみで話すしくみ
ホタルは光を使ってお互いに話をしています。ホタルは体の中で化学反応を起こして光を作ります。この光は熱をほとんど出さないため、科学者は「冷たい光(冷光)」と呼びます。
オスのホタルが原っぱの上を飛ぶとき、決まったパターンの合図をピカピカと出します。それはまるで秘密の暗号のようです。種類ごとにちがうパターンを持っています。例えば、アメリカ東部にすむホタル(Common Eastern Firefly)は、アルファベットの「J」の形を描くようにすばやく飛んで光ります。メスは下の草の中にすわっています。正しいパターンが見えると、メスは「ハロー!」と返事の光を返します。
原っぱに明るい白い光を照らすと、この会話を邪魔してしまいます。ホタルにとって、白い懐中電灯は目をくらませる光の壁のように見えます。これでは、パートナーを探すための大切な光の合図が見えなくなってしまいます。住みかが白い光でいっぱいになると、オスのホタルは飛ぶのをやめ、メスも返事をしなくなります。お互いの合図が見えないと、ペアになれず、来年のための卵を産むことができなくなってしまうのです。
あなたの目と「暗順応(あんじゅんのう)」
白い光は、ホタルを混乱させるだけではありません。あなた自身の目も見えにくくしてしまいます。
人間の目は、暗やみに慣れるすばらしい力を持っています。目の中には「かん体」と呼ばれる小さな光のセンサーがあります。暗い原っぱに入ると、目はゆっくりと特別な物質を作り、暗い場所でも物が見えるように助けてくれます。この変化のことを「暗順応(あんじゅんのう)」と呼びます。
目が暗やみに慣れるには時間がかかります。夜空に目が完全に慣れるまで、およそ20分から30分かかります。目が慣れると、それまで見えなかった暗い小道や木々の影、そしてホタルのやさしい光が見えるようになってきます。
けれども、だれかが白い懐中電灯やスマホの画面をあなたの顔に向けると、その物質が一秒もたたないうちに消えてしまいます。目の慣れが完全にリセットされてしまうのです。もう一度はっきり見るためには、暗やみでさらに20分待たなければなりません。夜の視界を守ることが、何百もの小さな光を見るための大切なカギなのです。
赤いライトのふしぎな力
足元を照らす必要があるときは、どうすればよいでしょうか? 答えはとても簡単です。「赤いライト」を使うことです。
ホタルの目と人間の目は、赤い光に対する反応がまったく違います。ほとんどのホタルは、波長の長い赤い光をうまく見ることができません。ホタルにとって、やわらかい赤い光はほとんど見えないのです。だから、虫をおどろかせることなく、自分の足元を確認できます。
また、赤い光はあなたの夜の視界も守ってくれます。赤い光は目の中のセンサー物質をこわしません。赤いライトを消しても、目は暗やみに慣れたままです。
赤いライトを使うのに、高いライトを買う必要はありません。家で2分で作れます。ふつうの懐中電灯のレンズ部分に、赤色のマスキングテープや赤いセロハンをはるだけです。輪ゴムでとめるとしっかり固定できます。ヘッドライトによっては、最初から赤い光に切り替えられる機能がついているものもあります。観察する場所に入る前に、必ず赤いライトをつけておきましょう。
フラッシュを使わずにホタルの写真を撮る方法
友達に見せたりAlitaptapに投稿したりするために、ホタルの写真や動画を撮りたいと思う人も多いでしょう。でも、夜の撮影は少しコツがいります。
いちばん大切なルール:カメラのフラッシュは絶対に使いません! フラッシュはパッと光る強い白い光です。ホタルをおどろかせ、光の合図をやめさせてしまいます。さらに困ったことに、フラッシュを使うとホタルの写真はきれいに撮れません。まぶしい光がホコリや葉っぱに反射して、かんじんの小さなホタルの光が消えてしまうのです。
かわりに、スマートフォンのカメラを「夜景モード(ナイトモード)」に設定しましょう。夜景モードにすると、シャッターが2〜3秒間開いたままになります。これで、やわらかい光を時間をかけて集めることができます。
シャッターが長く開くため、少しでも動くと写真がぶれてしまいます。カメラをしっかり固定しなければなりません。手で持ったまま立って撮ろうとしないでください。木の柵にひじをのせたり、地面にすわったり、平らな岩の上にスマホを置いたりしましょう。小さな三脚を持っているなら、ぜひ持っていきましょう。
スマホを原っぱに向けて、そっとボタンを押します。写真が撮り終わるまで、カメラを完全にとめたままにします。すると、暗い背景の中に、やわらかい緑色の点や光のすじがきれいに写し出されます。
みんなで見る場所でのマナー
ホタルはよく、公園や川のほとり、自然保護区などに集まります。人気の観察スポットを訪れるときは、他の観察者や生きものたちと場所を分け合っていることを忘れないでください。
舗装された道や砂利道から外れないようにしましょう。これはホタル観察で最も重要なルールのひとつです。ヨーロッパハナホタル(European Glow-worm)やマドボタルの一種(Rimmed Window Firefly)など、多くの種類のメスのホタルは地面の近くにいます。飛べる羽を持たないメスもいるほどです。彼女たちは草の茎をのぼって光を放ちます。もし草むらの中に入ってしまうと、靴でメスや隠れている幼虫を踏みつぶしてしまうかもしれません。
スマホの画面は暗くしておきましょう。観察場所に着く前に、画面の明るさを下げておきます。地図を確認したりカメラの設定を変えたりする必要があるときは、画面を自分の胸に向けたり、手で覆ったりしてください。
静かな声で話しましょう。大きな音がホタルの光に直接影響することはありませんが、大声は休んでいる鳥などの野生動物をおどろかせてしまいます。静かに観察することで、みんなが気持ちよく楽しむことができます。
夜の発見を記録しよう
観察が終わったら、見つけたことを本物の科学の研究に役立てることができます。どこにいたか、夜の何時ごろか、どんなパターンで光っていたかをメモしておきましょう。
今月、Alitaptapのコミュニティメンバーは、マサチューセッツ州でフユボタル(Winter Fireflies)、インディアナ州でハイイロホタル(Little Gray Fireflies)、ブラジルで Aspisoma lineatum を記録しました。こうした報告のひとつひとつが、ホタルがどこで元気にくらしているか、どこで保護が必要かを科学者が突き止める手助けになります。
赤い懐中電灯を使い、フラッシュを切り、決められた道を歩くことで、あなたはこの素晴らしい昆虫たちを守ることができます。今度夜の探検に出かけるときは、あせらずじっくり、夜の視界を守りながら、すてきな光のショーを楽しんでくださいね!
