ホタル観察会でいちばん大変なのは、最初の15分間です。この時間は、まわりがまったく見えません。
まだ明るいうちに到着して、道がわかるうちに準備をします。そして、待ちます。目が暗さに慣れるには15分ほどかかりますが、そのほとんどの間は、何も起きないように感じられます。参加者のなかには、来る日をまちがえたとささやき始める人もいます。
そのとき、草の近くの低い場所で、ひとつの光がともります。数メートル離れた場所から、ふたつめの光が返事をします。その瞬間、ホタルたちは最初からずっとそこにいたこと、そして、あなたがまだ見えていなかっただけなのだと気づきます。
赤いライト、または明かりなし
ホタル観察会のたいせつなルールで、みんながびっくりするのがこれです。ライトは消しましょう。どうしても明かりが必要なときは、赤い光にしてください。
ホタルは光を交わして仲間をさがします。オスが合図を送り、メスがそれに答えます。この光の会話は数秒で終わります。野原を照らす白い懐中電灯の光は、この会話をすっかりかき消してしまいます。ライトを点けている間、あなたが会いに来た虫たちは、短い大人の人生の大切なことができなくなってしまいます。
赤い光なら、邪魔になりにくいだけでなく、自分の夜の視力を守るという良い点もあります。だれかがスマホの画面を一番明るくしてチェックしたあと、みんなの目が慣れるには10分もかかります。
全部ではなく、1匹をよく見る
野原全体を見渡したくなりますが、役に立つのは、1匹の虫を選んで30秒間じっと見ることです。
見ているのはリズムです。小さな一定のランプのように、ずっと光りつづけていますか?1回光って、長い間お休みしますか?短い光をパッパッとくり返したり、それぞれの虫が自分のペースで光っていますか?それとも、たくさんの虫がまるで木全体でひとつの心臓の鼓動のように、そろってリズムよく光っていますか?
このリズムこそが、何を見ているのかを知るための一番の手がかりです。色や大きさよりも、専門家にとってはるかに多くのことを教えてくれます。何という種類なのかを知る必要はありません。その光がどう動いたかを、素直に言葉にすればいいのです。
数えるのはむずかしいから、だいたいの数で
ホタルの数を正確に数えられる人はいません。「ちょうど240匹いたよ」と言う人がいたら、それは作り話です。
だから、だいたいの数で数えるのが正解です。1匹か2匹。ちょっとした数。たくさん。何百匹も。自分が自信を持てる範囲のほうが、適当に作った正確な数字よりも価値があります。次にその記録を読む人が、あなたが実際に何を見たのかを知りたいからです。
名前についても同じです。種類がわからないときは、「ホタル」とだけ書いてそこで終わりにしましょう。まちがった学名は、名前がないよりもタチが悪い後から読む人がみんなそれを信じてしまうからです。
何も見つからない夜もある
夕方に出かけていっても、まったくホタルがいない日もあります。月が明るすぎたり、寒すぎたり、夕方6時に大雨が降ったり、ここのホタルは3週間前にシーズンが終わってしまっていたりします。
それでも、ノートに書き留めましょう。
昔はホタルが見られた場所なのに、今日は1匹も見つからなかった。その記録はとても大切なものです。生き物の数が減っていくことに気づく数少ない方法のひとつだからです。だれかがその場に行って、「見てみたけれどいなかった」と書き残してはじめて、いなくなったことがわかるのです。
なぜここでの記録がこんなに大切なのだろう
フィリピンには、ホタルについての「記録が足りない」という大きな問題があります。
このプロジェクトが集めたデータを見ると、フィリピンからのホタルの記録は120件あります。そのうち、科学的に「研究レベル」と認められる条件を満たしているのは、なんとたったの1件だけです。これは、ふたりの専門家がそれぞれ別の場所で同じ種類だと確認したものです。残りの119件のうち、108件は種類ではなく、ただ「ホタル」としか書かれていません。
それは、フィリピンの生き物を見守る人たちがいい加減だからではありません。地元で調査をしている人がほとんどいないことと、専門家が確認していない写真はずっと「ホタル」のままになってしまうからです。ホタルはここにいます。足りないのは、記録するノートなのです。
国のデータにある14種類の名前のうち2つは、まったく別の大陸の名前です。ひとつは北アメリカに住む「ブルーゴースト」、もうひとつは「ポルトガルホタル」です。どちらもフィリピンにはいません。近くで間違いを教えてくれる人がいないと、こういうことが起きてしまうのです。
ノートが力に変わるとき
ここからが、観察会でがんばって立っていた甲斐があるところです。
その日の夕方の記録はすべて、だれでもダウンロードできる無料の地図に載せられます。ある場所の日付入り記録がたまると、その場所専用のページができます。そこには、これまでに見つかった場所、種類、そして実際に人がホタルを見つけた月が載っています。
だれかが道路やリゾートホテル、たくさんの明るいライトを作ろうとしたとき、そのページを印刷して村の役会(バランガイ・カウンシル)に見せることができます。「ここにホタルがいます」と言うだけでは、いつだって負けてしまいます。「3つのシーズンにわたってみんなで公開した47件の記録があります。これがそのリンクです」と言えば、負けないかもしれません。
生き物を守るには、記録を残すことが何よりも大切です。他の方法では守れないことが多いのです。
だれでも主催者になれます
許可証も、生物学者も、お金も必要ありません。必要なのは、暗い夜と、赤いライト、そして何かをノートに書き留めようという気持ちだけです。
このサイトはひとりの人間が本業の仕事の合間に作っているので、私たちがあなたのかわりに観察会を開くことはできません。でも、観察会で生まれたデータはすべて、ここで無料ですし、ずっと残ります。集めたみんなが自分たちのものとして持っていられるように、自由に使えるルールにしています。もしあなたが観察会を開いて、いっしょに参加してほしい人がいたら、いつどこでやるか教えてください。私が行ける場所なら、かけつけます。
このサイトには、ホタル観察会のやり方についての詳しいキットが載っています。調査のしかたや、ホタルの光の邪魔になるもの、そして紙に印刷して書き込める記録シートもあります。スマホの画面も光を出してしまうので、紙に書くのが大切です。
まずはひとつの野原で、ひとつの夕方に、そして何も見えないはじめの15分を、気長に待つところから始めてみましょう。